2009年12月アメリカウエストバージニア州ランソン市でのセミナーを終えて。


師範五段T.H

アメリカに対しては、先の大戦のこともあり、余りいい感じを持ってはいなかったが、今回、空港に降りたってアーリントン墓地を見学した後には、これほど国に尽くした兵士を大切にしている事に感慨を覚えた。二十四時間交代で兵士が墓地に詰め、ゴミの一つもなく、大声で話す人もない。
 
 フォードの大きなワゴンに乗り込み墓地を出て、ワシントン市内を少し回り、目的地へと向かう。郊外にほとんど信号はなく、緩やかなアップダウンの道が続く両脇には、柵のない大きな敷地の中にゆったりした家が建つ。国土も、家も、車も、全てが大きくゆったりとしている。そしてアメリカ最初の食事はウェンディーズのハンバーガー。

 道場について、赤絨毯にはびっくりしたが、宿泊先のゲストハウスは築百年という素晴らしいもの。屋根裏部屋まで入れると、五つの寝室に六つのベッドがある。中は全てクリスマス一色。大きな洗濯機に乾燥機、冷蔵庫。全てがおおらかな作り。稽古を始める前に、アメリカ人の基本的な気質がわかったように思えた。

 セミナー初日、どうなるかと不安があるが、人は余り多くない。道場主のジング氏は、スキンヘッドにあごひげの少し怖そうな人だったが、特殊学校で教師をしている人格者。

 空手ではかなりのようで、たくさんのトロフィーが壁を埋めている。お互い緊張気味のスタートだったが、参加者は講義も真剣に聴いている。

 実技指導に入ると一気に熱がこもってきた。子供たちが実に活発で興味津々。「やってみたい人!」と最高師範の声がかかると、真っ先に手を挙げてくる。

 つられて、遠慮気味の大人たちもやってくる。

様々な流派の居合や剣術をやっていた人、拳法や空手はほとんどが体験している。しかし、みんなどれが本物なのかわからないという疑問があったという。

 実技の初めは当然、抜刀・納刀。子供たちも真剣に取り組んでいる。

 初日が終わって、修了証を最高師範から受け取るときには、みんな同門の様な気がした。夕食は近くのレストランでステーキ。最高師範の指示で、食事はすべてダッチアカウント。
 
二日目は、また違うメンバーがやってくる。講義内容も一般的なものから、だんだん具体的なものになっていく。いろは撃ち、立木撃ち。立木は竹を三本ダクトテープで巻いて、試斬台に固定したもの。一息で三十回打つというと、子供たちが争って記録に挑戦する。

三日目。最終日には、なんと六時間掛けて車でやってきた人たちがいた。最後に我々が演武し、宗家、最高師範と続く。最高師範の演武は、未だ未公開の神速技ばかり。アメリカ人そっちのけで、私が見入ってしまった。アメリカ行きの数日前に講義内容やスケジュールが渡されたが、最高師範の本気モードが十分に伝わってきた。現地ではそれを実証するかのように濃い術理や理念の説明と、圧倒的な演武であった。
 
 この地から天眞正自源流をアメリカで根付かせるという、断固とした決意が伝わる。同時に、これは同行した門人への開示と教唆であると思う。

 今まで見えていなかった最高峰、到達点の一部を示していただき、ここまで来いと全てを明らかにしていただいた。

 個人的には、今回のセミナーでこれが最大の収穫である。今までは、どこまで行ってもその先があるために、不安と無力感を覚えることもあったが、到達点が少しでも見えれば、自分の今の位置も、ここから先の道も見えてくる。

 演武等では自分の未熟さと稽古量の少なさを痛感した。

さすがに師範代は師範代、師範は師範である。振り返るとちょうど入門満二年の区切りとなるセミナーだったが、流儀の顧問として、恥ずかしくない技と内省を身につけていくことを改めて強く願う。

 このように未熟な者を顧問としていただいた最高師範にお答えできるよう、これは任せられるという、一つでもしっかりしたものを確立して、次回のセミナーにも是非参加させていただきたい。
 
 最後にツアーコンダクター、通訳、雑用係と、大変だったSさん、お疲れ様でした。ありがとうございました。
 
       今後ともよろしくお願いいたします。